畳8畳

狭いですがゆっくりしていってください

道具

自分が阪神大震災を経験したのは、誕生日の翌朝、自宅でパーティを終えて暫くした時だった。

 

まだ暗い夜中に、友人たちは帰宅し、僕は一人で片付けをしていた。

 

ギャーギャーと騒いでいた部屋に静けさが戻り、蛍光灯のジーという音と、窓の外で新聞を配るバイクの音だけが耳へ届く。

 

眠気と戦いながらグラスや皿を重ね合わせていた。

 

...とその時、

 

地響きとともに部屋がグラッと傾いて僕はバランスを崩した。

 

突然の出来事にパニックになりながらコタツに手をかけたが、大きな力は僕と部屋の物達を揺らした。机の上の皿やグラスは床に落ちて割れ、電気が消えた。

真っ暗な中、くしゃみを連発。

電灯笠の上、本棚の隙間、あらゆる所で埃が舞っている。

 

僕は身の危険を感じて懐中電灯を探しに行った。

 

冷蔵庫の上に置いてあることは知っていた。

 

真冬のキッチン。床を歩く度に足の裏からピンと張った冷たさが伝わる。

 

冷蔵庫の上を手探りすると、懐中電灯がヒーローのように出てきた。

 

何とも頼もしかった。

堂々として格好良かった。

 

しかし...、肝心のスイッチが点かなかった。

電池が切れていたのだ。

 

この時自分はこの道具が三振をした代打の様に見えた。

ピンチの時に出番が周ってきたこの打者が、空振り三振アウトになった瞬間だった。