畳8畳

狭いですがゆっくりしていってください

空間

漫画ジョジョの奇妙な冒険で、「虹村億泰」という空間を削り取る能力を持つキャラクターがいる。

 

一方、僕は空間を作り出す事が得意だ。

 

先日も派手に作ってしまった。

 

初夏の兆し

土曜

晴天

渋谷

正午

平均的な待ち合わせ時刻

スクランブル交差点

 

放射線状に設けられた横断歩道。端々の合計1000を超える通行待ちの人の数。

真っ赤な目の信号機が人の波を睨み、2000を越える目がカウントダウンを睨み返す。

 

車道の信号が黄色から赤に変わり、無理に横断しようとするタクシーの傲慢さに、皆が呆れて溜息を付き、その黒光する車内からは何ら悪気もなく澄ましたの運転手のあの、「独特」が見える。

 

そして歩行用の信号が青に変わるまでの1秒間。

スクランブル交差点には謎の静けさがやってくる。

 

次の瞬間、決壊したダムから、堰き止められていている人波は溢れ出し、迷うこと無く目的の島に向けて打ち付けられていく。

足並みの揃っていない行進。削られるアスファルト

流動的な1000、2000の人間。それぞれが全く違う言葉を発している。それはレイヤーとなって積み重なる。四方八方、密接に囲まれたビルの中では音が逃げ切れず、雑音は高層に積み上がっていく。

 

それぞれのランダムな思考と行動。視界、歩行速度、進行方向が違う人間。

とても複雑なネットワーク構造にも関わらず、僕達は絶妙なタイミングで衝突を避けていく。

 

そんな中、僕は横断歩道の真ん中で転倒した。

愚かにも自分の足につまずいたのだ。

 

スローモーションだった。

 

前を歩く人の一瞬振り返った姿が見えた。

転倒後、慌てて起きようとした。

 

人目が気になって恥ずかしすぎるのだ。

 

周りには半径1.5m程の空間ができていた。

乱流する川に投じられた一石を皆が避けていく。

雑音も心なしか少なかった。

あらゆる人の無表情がこちらを向いていた。僕が通行人で、転倒した人が突然視界に出てきたらどんな表情で、何を感じるだろうか。

 

横断歩道は転倒する場所ではなく、歩行する場所である。

その秩序を乱した異端児の自分が起こした行動が渋谷のど真ん中に空間を作り出した。

 

立ち上がった瞬間、空間は埋まっていく。

振り向いたら何人かと目が合った。

口角が上がっていた。

今直ぐに冷や汗で濡れたシャツを着替えたかった。

 

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次の日、僕は偶然同じ時間に渋谷に居た。

今度は車の中でスクランブル交差点の信号待ちをしていた。

 

初夏の兆し

日曜

晴天

渋谷

正午

平均的な待ち合わせ時刻

スクランブル交差点

 

交差点の中に空間が見えた。

 

外国人観光客であろう、カメラのストラップを肩に掛けたおばさんが転倒していた。

おばさんはキョロキョロを見渡し、カメラのレンズが外れいてないことを確認し、何事もなかったように別の島へ泳いでいった。

 

その一部始終を車内から見ていた僕だけが、おばさんの能力に仲間意識を感じていた。